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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)590号 決定

抗告人 有限会社福田商店

右代表者代表取締役 福田英雄

右代理人弁護士 斉藤尚志

同 浅野晋

相手方 第一建設株式会社

右代表者代表取締役 横沢正治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。相手方(債務者)は、別紙物件目録記載および同図面の土地に立入り、その他抗告人(債権者)の占有を妨害する一切の行為をしてはならない。抗告費用は、相手方の負担とする。」との裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、「原決定は留置権の要件である債権者の占有に関し、その事実認定を誤まったものである。」というのである。

二  そこで本件抗告の当否につき検討するに、記録によると抗告人は件外株式会社森山組(以下「森山組」という)に対し、宅地造成工事に使用する砂、砂利等の建設用骨材、セメント、セメント製側溝等の資材(以下単に「材料」という)を売渡し、その残代金債権を有するところ、右森山組は相手方との宅地造成工事請負契約に基いて、請負人として相手方所有の別紙物件目録記載の不動産(以下「本件係争地」という)につき、抗告人から買受けた右材料を用いて擁壁、側溝、道路等の造成工事を施行して本件係争地を宅地化し、相手方から右工事代金全額を受領しながら、抗告人に対して前記材料の残代金を支払わないため、抗告人において右残代金債権を保全するために、右森山組から本件係争地の引渡を受け現に占有中であるとして、これにつき留置権を有する旨主張し、相手方に対し、抗告人の右留置権妨害禁止を求める本件仮処分申請に及んだものであることが認められる。

然し乍ら、右事実によると、抗告人が右森山組に売渡した造成工事用の材料(動産)は、右森山組が相手方所有の本件係争地について施行した宅地造成工事の結果、本件係争地に附合してこれと一体化し、もはや動産としての独立性を完全に喪失し、いわゆる土地の定着物として相手方の所有に帰するに至ったものというべきであり、従って仮に本件係争地(及びその定着物)につき抗告人の占有を肯定したとしても、その占有する「物」は「債務者」森山組「所有ノ物」でないことが明らかであるから、これにつき抗告人が商事留置権(商法五二一条)を取得する余地は全くないといわなければならない。

また前記事実によれば、抗告人の有する債権は森山組に対する材料売買代金債権であって、これと牽連関係に立つ「物」は動産たる右材料自体であるというべきところ、右材料は抗告人がその売渡後本件係争地の占有を取得する以前に既に宅地造成工事によって、土地の定着物と化して独立の存在を失っていること、しかも右材料を用いて右造成工事を施行したのは抗告人自身ではなく、森山組であることが明らかであるから、右森山組の工事請負代金ならば格別、単に同社に対する材料売掛代金に過ぎない抗告人の債権を以て、本件係争地(及びその定着物)との関連で、自己の占有する「物ニ関シテ生シタル債権」に該当するとは到底いい難い。

従って、抗告人は本件係争地について民事留置権(民法二九五条)を取得するいわれも全くないといわなければならない。

以上の次第で本件仮処分申請については、抗告人主張の被保全権利(留置権)を認めるに由なく、また事実の性質上保証を以て疎明に代えさせることも相当でないと考えられるので、本件仮処分申請はこれを却下するのが相当であると解する。してみると右と同一の結論に出た原決定は結局正当であり、その取消を求める本件抗告は失当として排斥を免れない。

三  よって、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 井口牧郎 裁判官 野田宏 藤浦照生)

〈以下省略〉

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